オンナだらけの国

 近所に1軒だけ、個人宅を改築した雰囲気のいい食堂がある。カフェ然とした佇まいの店だが、メニューは定食がメインなので食堂と呼んで構わないだろう。店名にも「食堂」と明記してあるし。店のBGMや内装の雰囲気から察するに、小林聡美が出てくる映画の世界観が好きなんだと思われる。

 その近所の食堂は、近いのでたまに食べにいく。本当は毎日行っても良いと思うくらい美味いのだが、メニューが6種類くらいしかないので飽きるだろう。なので多くて月イチくらいのペースだ。頼むものは日替わりの、鳥の唐揚げかフリットだ。それを食べに行っていると言っても過言ではない。

 つい先日も久しぶりに顔を出したら、メニューがあまり残ってないと言われてしまった。日替わりがあれば良いと思ったのだが、ここでは日替わりしか頼まない僕にわざわざ「あまり残ってない」と言うってことは、と察した通り日替わりはなかった。仕方ないので「島豆腐ハンバーグ」を頼んだ。

 注文してしばらくすると、店内が異様に騒がしいことに気がついた。昼下がりの女子会だ。先客3組のうち2組が顔見知りらしく、席を隔てたクロストークを展開している。狭い店の中で、彼女らの声だけが響きわたっている。話の内容を完璧に記憶できるくらいの大声だったので、少し開陳する。

 そのグループのひとりが片付けられない女のようだ。その女が仕事を休んで「片付けの達人」的な友達を呼んで、断捨離をしていると言う状況らしい。そこで片付けの達人が「とっておきの話がある」と、大きなタメを作ったが「ここでは話せない」と勿体つける。人前で話す話じゃないのだろう。

 古い衣服が大量に発掘される女の家で、男の目がある公の場で話せないことといえば下ネタなんだろう。気色の悪い勝負下着でも出てきたのだろうか。知らんがな。他人がいる場所を我が物顔で占拠する貴様らの会話自体が下品だってことを思い知れ。そう頭で結論づけたところで食事が終わった。