白い朝を駆け抜ける自転車

 最近読んでいた増田俊也「七帝柔道記」が面白くて、その物語の世界に浸るうちに学生気分を思い出していた。その物語は、著者の自伝的な青春小説のようである。北海道大学の柔道部の日常が描かれているのだが、その日常が全然普通じゃない。ほとんどの場面で、柔道部員は疲弊しきっている。

 この物語の中の柔道部員は、練習で自分を追い込んでいる。寝技中心の特殊な柔道で、その柔道のルールでは「練習量がすべてを決める」と言われている。そこで極限まで練習で追い込んでいるのに、年に一度の大会では最下位になってしまう。どれだけ練習しても「足りない」と言われてしまう。

 僕が大学1年生の頃は、部活が休みなしで辛かったと記憶している。休みがないことよりも、練習そのものが厳しかった。ハードな練習に慣れていなかったので、次に何を「やらされるのか」とビクビクしながら練習していたのだ。それに比べて周りの同級生は、そんな練習を淡々とこなしていた。

 いや、周りを見る余裕がない僕は、同級生から「ここの練習は楽だ」という言葉を聞かされて気付くのだ。僕がヒーヒー言ってるだけで、他の連中はキツくないのだ。僕は毎日ヘロヘロで、風呂に入る時間も惜しいくらい寮では疲れ果てていた。だから、よく消灯時間を過ぎて風呂に入りそびれた。

 秋のシーズンに向けて、練習はどんどんハードになってゆく。練習時間が長くなってゆく。大学の試合で使えるようになるために、先輩からは太れと言われるのだが、いくら食べてもやせ細っていくように思われた。毎日、早朝に練習に向かう道のりで、死なない程度に怪我したいと思ったものだ。

 そんな日々で、二度と戻りたくないと思っていたはずなのだが、思い返すと懐かしい。愛おしい日々でもある。毎日、辛い練習の中でも面白いことはあったし、笑って生きていた。腐らずに過ごせていた。だから、もっと気の持ちようで練習自体楽しめたんじゃないかというのが数少ない心残りだ。

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学生時代の部活の寮では、朝、先輩を起こしにいくヤクー(役)が地獄。