海外渡航歴を述べよ

 中国由来とされる新型ウイルスの拡散が心配される昨今だが、海外に行くことはいろいろリスクを伴うものだ。リスクというか、覚悟とでも言うか。僕は、20代の中盤にインド旅行に行った。その旅行の帰りに1週間だけタイ旅行を足した。それ以外では、友達の結婚式でシンガポールに行った。

 その3カ国だけが、僕が「行ったことのある国」だ。インドに行ったのは沢木耕太郎深夜特急」に憧れてのことなので、本当ならそのまま西を目指すべきだった。別に手法をトレースする必要もないので、路線バスで行く縛りは無視してよかったのだが、普通にインドだけで帰ってきてしまった。

 20代の中盤でこんな旅行をするのは最後の無謀であり、本当なら大学生の頃にやっておくべき冒険だ。その頃なら冒険と呼べるのだが、一度は社会に出ている人間がインドに行くというと、どうしてもドロップアウト感が否めない。人に話す時にも「自分、探せた?」と言う目で見られてしまう。

 安易に会社を辞めてインドに行ってしまったが、僕にとっては社会人生活リセットの感覚だった。大学時代に部活だけで走り抜けた時間を取り戻すために、時間差卒業旅行に行ったのだ。別に自分探しという目的もなくて、ただ、安く長く無目的にブラブラできる場所を探した挙句のインドなのだ。

 そんな安易旅行なので、あまり勉強というか、準備しないで行ってしまった。初めての海外旅行なのに、バックパッカーで旅行ガイドの本も持ってないという。なんとなく「身ひとつ」で行かないと卑怯なような気がしてしまったのだ。少しでも冒険の要素を取り入れないと、という義務感である。

 結局、せっかくインドに行ったのに、行くべき場所にはほとんど行ってない。遺跡の類は興味がないし、文化に触れたいわけでもない。ただ、知らない土地で「もまれたい」という修行の気持ちだけなのである。それなので、10週間過ごしたはずなのに中身が極めて薄いので人には話せないのだ。

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マドゥライのミナークシ寺院東門。数少ないインド観光の証拠写真だ。