にわか戦場サバイバル

 閉店間際の居酒屋で注文するか会計するか迷っていると、店主が気を利かせて「まだ大丈夫ですよ」と声をかけてくれる。ちょっと嫌らしい話だが、どこかで自分もその声かけを待っている。待ちきれずに「もう一杯だけ良い?」と聞くときもあるが、昨日はお店側から了解を得ようと待ってみた。

 別に誰かと競っているわけじゃないのだが、最後の客になろうと思ってしまった。先客が2組いたのだが、その人たちが全然お酒を頼まないのが気になった。話に夢中の様子だったが、その店は料理が旨くて飲み物も凝っているから「頼めば良いのにな」と思っていた。直接は言いたくないのだが。

 お店の利用の仕方なんて自由だと思うが、閉店時間を過ぎているのに話に夢中だったので、釈然としない思いがあったのだ。この人たちより先には帰りたくない。知らぬ間にそんな決意が芽生え、彼らの様子を伺いながら飲み続けていた。勝手に始めたレース。絶対負けられない戦いがここにある。

 ただ帰らなきゃ良いだけのレースだが、店主の目は気になる。ひとり客は僕だけだったから話し相手になってくれていたので、その合間に飲み物を頼んで、居続ける意思表示をする。でも、そこでハタと気付いてしまった。彼らは僕が飲んでるから「まだ居ても良いんだ」と判断している可能性だ。

 そこに思い至った段階で、このレースの雲行きが怪しくなってきた。そこで、揺さぶりをかけることにした。店主に直接「閉店時間が過ぎている」件をぶつけてみるのだ。それは諸刃の剣で自分にも跳ね返ってくるのだが、それは知った上での攻撃だ。時間を忘れて話している可能性もあり得るし。

 そのうち店主も「そろそろ帰ってほしいな」と思い始めたらしく、外の看板を仕舞ったり、電気を消したりしはじめた。店主に「それじゃ閉店です」と宣言されたら、このレースは引き分けだ。固唾を飲んで成り行きを見守っていたが、根負けした(推定)先客が先に帰ったので急いで僕も帰った。

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何を食べても旨いが、その日のオススメは特に旨い。絶品イカスミパスタ。