思い出は素敵な誤解

 かなり前に読んだ雑誌のコラムで、とても印象に残っているエピソードがあった。内容はハードな下ネタなので、ここでは差し控えさせてもらう。ただ、そのハードさが突き抜けているので、下品な話の割に嫌な印象はなく、心に刻まれていた。そんなコラムをまとめた文庫本を古本屋で見つけた。

 外側のコンディションがイマイチだったので迷ったけれど、立ち読みして例のエピソードを確認した瞬間に「買い」と脳が許可した。エッセイ集の類になるのだろうけれど、並んでいるラインナップがことごことく下品。人が嫌がるような話だけをまとめてあるので、途中くじけそうになることも。

 それでも、ところどころに挟まれる本物の変態から聞いた話などは、聞かなきゃわからない(聞く必要もない)世界のエピソードばかり。電車内で読んでいると文字列に愚劣極まりないワードが並んでいるので、人目をはばかるところはある。それでも、つい吹き出してしまうことも多々あるのだ。

 そのコラムが載っていた雑誌の、まったく別のコラムでも印象的な文章があったと記憶している。そっちは下ネタじゃないので記すが、カウボーイのブーツのカカトに付いているピザカッターみたいな部分の名称についての記述があったのだ。そこには「コックローチキラー」と記されていたのだ。

 この記述は間違いらしいのだが、そもそもそんな記述があったかどうかも定かではない。ただ、そのコックローチキラーという言葉だけが僕の脳みそに刻み付けられている。その言葉の印象だけで、西部劇の時代のアメリカはゴキブリが多かったんだろうなぁと、勝手に想像したりしていたものだ。

 調べた今なら分かることだが、ピザカッター的な部分のことは「拍車」と呼ぶそうだ。ゴキブリを殺す道具じゃなく、馬に対する出発の合図で使うもののようだ。あの慣用句で例える必要もないくらい、読んで字のごとくではある。で、コックローチキラーは殺虫剤のこと。そのまんまなのである。

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記憶違いを自覚するたびに、つくづく自分は脳を使いこなせてないと思う。