あの日のジャイアンを検証

 僕の中でわだかまりとして残っていることがあって、そいつがたまにフラッシュバックのように思い起こされて再燃する時がある。そんな時は「過ぎたことにイライラしても仕方ない」と自分に言い聞かせて、鎮火させるしかない。それでもたまに思い出してしまう。自分はなんて執念深い人間なのだろう。

 そのフラッシュバックするシーンは、東京ドームで行われたエアロスミスのライブだ。いや、エアロスミスの名誉に関わるといけないので名前は伏せてもいいのだが、それでは仮に「エアロスミス的なバンド」の公演でのことだと思ってほしい。僕にとっては、初めてそのバンドを体感する機会だったのだ。

 その頃はスタンディングのホールで観ることが多かったので、座席があって広いドームでの鑑賞に落ち着かないものを感じていた。でも、ライブが始まってしまえば気持ちはイッキに高まるものだ。そして始まったのだが、ひとりの女性客の歌声がやけに耳に入ってくるのだ。まあ、序盤だから我慢しよう。

 そういう周りの声がうるさく感じるのは、僕がまだライブに没入してないからだと思いステージに集中するようにした。たくさんの好きな曲が流れるたびに、思い出や熱い感情が込み上げてきて引き込まれる。それでも現実に引き戻す何かがある。そう、あの女性の声は常に僕の後ろから聴こえてくるのだ。

 全部の曲を覚えていて、英語の歌詞も歌えるんだと誇示するような堂々たる歌いっぷり。周りには、家族か仲間と思われる連れがあり、僕の斜め後ろに陣取っている。僕とその女性の間にも数人はいたはずなのだが、他の人は気にするそぶりを見せない。それがマナーなのか、それとも関わりたくないのか?

 ある曲で、ボーカルがアカペラで歌い上げるシーンがあり、最後にタメるので場内が静まり返っていた。ライブ盤にもある有名なアレンジだが、そこで、その女性はタメずに先走って歌ったのだ。思わず振り返った僕と目が合った女性、出た言葉が「ライブの楽しみ方は自由じゃんね」という。僕の自由は?

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あれ以来、東京ドームでは野球の試合しか観ていない。