レタッチ後の世界

 僕が子供の頃は、心霊写真本や未確認飛行物体の特集番組など、スーパーナチュラル系のネタが当たり前に転がっていたものだ。つい最近まで、僕も真顔で仲間に「宇宙人と言われているアレは、未来から来た人間だ」みたいなことを話していた。そう言う仮説をアレコレ言い合うのが楽しかったのだろう。

 あの頃、宇宙生命体の話で怖かったのは「アブダクション」関連のネタだ。連れ去られた人間が、宇宙船の中で人体実験されると言う話。必ず最後には記憶を消されていて、頭部に何かしらのマーキングが残っているという。そういう証拠を残す辺りが、いかにも「自作自演」なんだと今なら分かるのだが。

 もう誰も幽霊や宇宙人、UMA(未確認生物)などの存在を信じていないのかと思っていたのだが、たまに幽霊ホテルに泊まるみたいな番組を見かける。カメラ前を飛び交う白い影や、TVが勝手につく現象が放送されていたのだが、あの映像を元にして専門家が検証すれば解明できるのにと思ってしまう。

 当時も今も、あの手の番組は「様式美」なのかなと思う。お約束というヤツだ。僕も子供の頃は、それを半ば信用する風に見せかけて楽しんでいたフシがある。いるわけないと冷めるよりは、ヤツらの存在を信じる側に立って怖がりながら見た方が断然おもろい。それに「いない」と断言もできなかったし。

 宇宙人関連の話が、次第に「陰謀説」に集約されるようになって来た辺りから面白がれなくなった。壮大な話にすれば理論として整合性を保てるだろうし、冷めない夢を見続けられるとも言える。でも、そうやって「すべては地下で繋がってました」的な収め方は、いかにもミステリー然とした伏線回収だ。

 僕の尊敬する漫画家は「真面目にふざけろ」と言っていたが、幽霊や未確認生物・宇宙人といったネタに乗るなら、やはり真面目にふざけたいところだ。それができなくなったのは感覚の経年劣化か、または、僕がアブダクションされて、それらをなかったものとして記憶を書き換えられたのかもしれない。