手を噛む飼い犬のブルース

 月に一度ほど、知り合いの事務所に行って仕事を手伝っている。そこの事務所は、社長である知り合いが借りた1DKほどの間取りのマンションで、ギリギリ仕事場の態勢を保っている感じだ。そこでいつも気になることは、他人がトイレで発する音と、自分が入った際に出る音漏れの問題なのだ。

 ここ数年は、事務所に着く前に昼飯を食べてから訪れている。午後イチから仕事に取り掛かって、だいたい6時前には帰る感じだ。そこの事務所に行かないとできない仕事ではないのだが、細かい注文をスッキリ伝える話法に長けていない人間が担当しているので、未だに来訪しなければならない。

 その担当者は、そこの事務所の社長の手下のような男だが、言い方は悪いが「下僕」のような扱われ方をしている。当人にはそんな気はなく、出会った当時と同様の仕事仲間の感覚でいるのだ。だから、傍から見れば明らかな主従関係が構築されているのに、全然その関係性に納得していないのだ。

 そこの社長は、言葉通りの重役出勤をキメるので、行っても会えることはまずない。僕の仕事自体は、その担当者とのやり取りの中だけで完結するから会う必要はない。ただ、その人と会わないと業界の情報が得られないので、僕としては行く価値が減る。逆に、会えるとハッキリすることが多い。

 昨日もその事務所の仕事だったので、いつものように向かうと久しぶりに社長に会えた。もろもろの確認事項を伝えられたのでスッキリした。その後、担当者と社長が業務連絡をしていると、徐々に社長の声が大きくなってきた。それに呼応するように、担当者の発する声はほとんど泣き声に近い。

 不手際を責められて、最初のうちは担当者も言われるままに反省の気配を見せている。それが、責め方がキツくなって来ると反撃に転じようとする。ひと言も言い訳が通用しない状況なのに、素手で立ち向かおうとするのだ。もちろん即座に迎撃され、撃沈する。このやり取りは様式美とも言える。

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仕事前にこのラーメンを食べて行くので、事務所で必然的に出したくなる。