つきまとう、昼のソース

 昼メシへの執着というか、出先のランチには旨いものを食べようといつも考えている。もともと何を食べてもウマイと言うタイプなのだが、もう少しコダワリを持ちたいと思いはじめたのが社会人になりたての頃。教育係の先輩社員は軽そうな人だったけれど、選ぶ飯屋のセンスはバツグンだった。

 そのエリアでイチバン旨い店は、担当を引き継ぐ時に申し送り事項として教えられる。そこに、さらにワンランク上の飯屋を追加できることは、同僚への評価をグンと上げる要素だ。単に業務遂行能力が高いだけでは、新しい飯屋は見つからない。そこには情報収集能力と好奇心が必要になるのだ。

 僕が引き継がれたというか、よく連れて行かれた店で印象深い店は町の洋食屋だった。見た目は「どこにでもありそうな」店なのだが、あの店と同じクオリティ、同じコスパの店には出会ったことがない。つまり、心のベストテン第一位にある洋食屋なのだ。そこのハンバーグがとても好きだった。

 会社を辞めたあと、その町に行く用事がなくてもハンバーグを食べるためだけに何度か通った。我が家からはクルマで30分ほどなので、たいした距離ではない。ただ、その頃は隣県へと渡る橋だけが有料道路になっていた。それさえなければ、もっと頻繁に通ったと思う。それだけが悔やまれる。

 なぜ悔やまれるかというと、今はもうその店はないからだ。僕が会社を辞めて数年後に、閉店してしまったのだ。それは、どこかでリニューアルを期待できるような話ではないという。つまり、あのハンバーグはもう食べられないのである。それを知った頃には、あの有料橋は無料化していたのだ。

 たかが数百円ケチったばかりに、僕は大事なものを失ってしまったような気がしている。だから、本当に好きだと思える味の店に出会ったら、なるべく通いたいと思うようになった。終わってから「好きだったのに」は、こちらの努力が足りないのだ。飽きるまで食べてしまえば後悔はないはずだ。

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昨日、馬喰町で食べたハンバーグは旨かったので、できるだけ通いたい。