そこだけの熱狂に酔う

 僕が学んだ酒場を楽しむための秘訣は、同じ店にとにかく通うことだ。何度も顔を出すうちに店員だけじゃなく、他の客の顔も覚えるし、向こうからも覚えられるようになる。互いに認識してしまえば、次に会った時には話したりする。本来ならばそこで、お互いの素性を明かしたりするのだろう。

 僕の仕事が、イマイチ人に説明しにくい曖昧業務となっている。以前は広告関係と言っても間違いない程度には、広告のお客さんもいたのだが。年々ジリジリとお客さんが減り、今では何でも屋の様相を呈している。その旨を全部説明する必要はないのだが、かいつまんで話せないタイプだもんで。

 僕は、日常会話をタイトに進めて、早く展開させたいところがある。そのためには初期設定を確立させておいた方が、途中の説明が省けて早いのだ。つまり、僕の現状を面倒でも最初から丁寧に話しておけば、先々の世間話をスピーディ化できるのだ。そんなものに速度を求める人もいないのだが。

 そのデフォルト設定は、しかし酒場ではほぼ意味をなさない。みんな酔っているから、何度説明しても「分からない」と言われる。で、結局は「何してるかよく分からない人」として浸透してしまう。その方がミステリアスで良いかなと、自分でもあまり修正しない。ただ、すこしだけ恥ずかしい。

 そんな知ってるような知らないような顔ぶれがカウンターに並び、酒場の店主をMCに見立てたトーク番組のように展開するのが理想だったりする。ただ、飲み仲間にオモシロを狙って話すと必ずスカされる。日常会話は聞いてくれるのに、オモシロに関しては何故か必要以上に厳しかったりする。

 確かに、雑な笑いが店に蔓延すると「程度が下がる」ような気がする。そこを注意深く、飲み仲間全員で回避しているのだ。回避しつつ、止むに止まれず漏れてしまったダジャレなどが無性に可笑しみがあったりする。そういう可笑しさをキッカケに、酒場が刹那の熱狂に包まれる時がとても好き。

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熱くなった頭にモヒートの爽やかなミント臭がキクぜ。