優しい心に寄り掛かれ

 会社勤めを辞めて、前職の繋がりや新しいツテを頼ってフリーランス業に移行したのが10年ほど前のこと。働けばギャラが貰えて、仕事が少ない月は身入りも少ない。シンプルで分かりやすい生活だけど、病気や怪我で動けなくなった時の心配もある。それを考えると、急に就職したくなるのだ。

 中年の独身男で、残念なことにマルもバツも付いたことがない。30歳になる直前に一度、そんな機会があったような気がする。その時の僕は、契約社員というあやふやな状態だった。その会社で一生過ごすつもりもなく、漠然と公務員試験を受けたりしていた頃だ。もちろん、その試験は落ちた。

 その、あやふや契約社員期に交際していた女性は明確な結婚願望の持ち主だった。そんな人がなぜ僕のような曖昧な存在と付き合っていたのか、それは先方の過去の履歴から良さそうなのを探ったから。つまり、学生時代に付き合っていた相手とヨリを戻したのだ。僕は、あまり深く考えなかった。

 最初に付き合った時、どのように別れたのかは覚えていない。自然消滅などというイヤな言葉があるけれど、まさにそんな感じだ。お互い社会人になって、忙しくなって、疎遠になるというサイクル。僕自身は忙しくも何ともなかったのだが、それでも、仕事に紛れて悲しみに耽ることもなかった。

 その、最初の交際の時に、ピンチを乗り越える成功体験を持たずに別れている。あの時ああすれば良かったと言っても仕方のないことだけど、そこで乗り越えた実績があれば、2度目の交際にも意味はあったかもしれない。そして、2度目の交際は、具体的な理由、つまり結婚できないので別れた。

 あの時の、大人のフリして分別ヅラして理屈をこねた自分には嫌気がさす。それは、相手から仕事を紹介されそうになって、断った時のことだ。それを断った瞬間に別れも決まった。プレーオフのような気分で付き合っていたから、真剣に向き合うこともなかった。そんな甘さが今でも消えてない。

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人生の岐路などというが、この先の道が不安な方が面白いと強がってみる。