レイニーヘアスタイリスト

 僕が若い頃の男子学生の興味は、女の子にモテたいという欲ばかりだった。その雑念から逃げるために部活をやったり、バンド活動をやったり、勉強を頑張ったりする。少なくとも僕の場合は、モテたくてスポーツをするんじゃなくて、モテに囚われた心を解放したくて走っていたような気がする。

 つまり、心のモヤモヤを走った時の心拍数と息切れで浄化するような感覚だ。それが、やがてスポーツでの成功体験や、負けた悔しさなどで本気になっていく。これはバンド活動やアートや勉強なんかにも変換可能な心のありようだと思う。性欲からの逃避が昇華した例は世界に溢れているはずだ。

 そんなモヤモヤ期に、僕がイチバン気になっていたのは髪型だった。ものすごく手入れをしてバシバシにキメていたという話ではない。ただ、いかに普通に見えるかということだ。高校時代だけ、妙に前髪のクセが強くクルンッとしていたのだ。それを補正しようと毎朝ドライヤーで伸ばしていた。

 だけど、学校が自転車で小一時間ほどかかる距離だったので、汗もかくし、風で髪は乱れまくるのだ。学校に着いたらボサボサで、本当は気になるんだけど、鏡を見て確かめるのは恥ずかしいという。だから、窓ガラスに映る自分を横目で一瞬確認してサッと整える。まったく無駄な自意識である。

 そんな悩ましい髪の毛を持つコンプレックス学生時代の最大の敵は、雨だ。雨の日は手に負えなくなる。自転車通学の上に、カッパ着用義務があり、傘さし運転は校門の前で教員に取り上げられてしまう。仕方なくカッパを頭からかぶると、濡れた上に蒸れた頭髪は例えようのない形状へと変わる。

 そういう毛の呪縛から逃れるために短くすれば良いのだが、野球部の真似みたいでイヤなのだ。そして頭の形も良くないので、坊主が似合わないと思っている。だから、当時の僕が願っていたのは「クセのない普通の頭髪ください」の一心だ。つまり、部活以外することなくてヒマだったんだろう。

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野良猫でも毛並みは悪くない。少なくとも高校時代の僕の頭髪よりは。