見つからない鍵の在り処

 ふと思い出そうとしたことが、パッと浮かんで霧消してしまうことがある。思い出せないままだと気持ち悪いので、スマホですぐに検索する。でも、何かしら関連ワードが出てこないと探せない。そこで関連ワードを考えている間に、もともと考えていたことを忘れてしまう。行方不明の言葉たち。

 先ほども90年代の渋谷系のバンド音楽を動画サイトで観ていて、ふと「この曲はアレに似ている」と思った。最初はアレじゃなくて、ちゃんと似ている元のバンドを思い出したのだ。でも、瞬時にフワッと消えてしまった。即座に検索で調べようと思ったが、なんとなく自力で考えようと試みた。

 ニュースか何かで「スマホを使えば使うほど健忘症が悪化する」的なことを見た。僕は自宅で作業しているので、会社勤めの人に比べたら格段にスマホを使っている時間が長い。ヒマがあるとすぐにスマホを見ている。ゲームも頻繁にする。無課金勢なので料金的な心配はないが、健忘症は心配だ

 そんなニュースが頭を掠めたので、自力で記憶をサルベージしようと思ったのだ。思い出したいバンドのCDを持っていたはずなので、とりあえず棚を調べた。果たして現物を見て思い出したと言えるのかは不明だが、行為としてデジタルよりはアナログの方が脳には良いのではないかと判断した。

 でも、棚にはそのCDはなかった。何年か前に断捨離したのだろう。その程度の思い入れしかない。お勉強的に買ったCDなのだ。渋谷系のルーツであるネオアコのユニットなのだが、ネオアコという言葉も失念していたので検索できなかった。最後は音楽サブスクの中身をほじって見つけ出した。

 この見つけ方は棚を直接探すのと似ている。でもスマホの中のデータなので、アナログ感はない。これは果たして健忘症を進めるのか、はたまた食い止めるのか。サッパリ分からん。でも思い出した。いや、これは思い出したと言えるのだろうか。正解を見ただけだ。そして、もう忘れかけている。

酔っ払って撮った夜空の写真は何かが墜落したかのよう。記憶は空の彼方に。