腕っぷし、からっきし

 子供の頃は圧倒的に高身長だったけれど、線が細くて力感のないタイプだった。気持ちも弱いし、暴力で前に出ようとするガキ大将型の人間から泣かされることが多かった。ただ、オモシロに関しては出しゃばりで、なんとなく自分を笑かす担当だと勘違いしていた。たぶん、勘違いだったと思う。

 身長は順調に伸びて、スポーツ選手としては理想的なサイズでまとまった。でも、学生の間は線の細さが解消されることはなかった。先輩や部活の顧問、コーチなどからは常に体重アップを求められた。でも、いくら食べても太れなかった。筋トレしても細くなるだけで、食べても体重は増えない。

 そこには僕の筋トレ嫌いというのもある。子供の頃から読んでいた漫画では、器具を使ったトレーニングが良いものとして描かれていなかったのだ。それよりも、ナチュラルなトレーニングで対策することが多かった。それは体格で劣る主人公の秘策として描かれていたので、参考にならないのだ。

 でも、僕の教科書として脳のど真ん中に「キャプテン」の谷口式の闇練があるので、それ以外のマシントレーニングが邪道に思える。谷口式の方が邪道なのだが、入り口がそっちなので仕方ない。かと言って僕がそういうアイデアを駆使した鍛え方をしているのかと問われれば、答えはノーである。

 なぜかと問われれば、それは必要なかったからである。確かにサイズアップを考えれば、マシンとプロテインで大きい筋肉を付けようなどの対策は必要である。でも、学生時代を通してマッチョでなければいけないと思えなかった。確かに太い胸板や腕があれば威圧できるけれど、それだけなのだ。

 どうもムキムキの体への嫌悪感が拭えない。子供の頃からの違和感が、半世紀たっても消えないのだろう。マッチョ思考への反発が、長く僕を支えている。だから、昨年からのヘルシー対策によって僕にもたらされたのは、生まれつきの痩せた体だ。暴力への耐性は低いが、暴力への依存度も低い。

若い頃はいくら食べても太らなかったが、今は食べた分だけ太る。不健康に。