心の声は漏らさず抱えて

 今朝は出張のため、早朝に家を出た。冬の朝は暗い。夜のように星が出ているが、しかし闇夜というわけではない。よく見れば明るみが加わった濃い青だ。5時半の街を駅に向かって自転車を走らせる。思ったよりも寒くない。いつもの道を走っていると、闇の中から急に老婆が現れて驚かされる。

 こんな朝早くに散歩か、はたまた徘徊して迷子になっているのではないか、などと逡巡したが先を急ぐので走り去ってしまった。このような心残りは小さな棘となり、自分の善意の弱さを突いてくる。出張は2泊なので、幸先のよろしくないスタートだ。でも、悪い占いは信じないし、すぐ忘れる。

 駅に着いて電車に乗り込むと、すでに座れない程度の乗客が乗っていた。みんな早いな、とも思ったが、夜勤帰りの人っぽい姿もあった。その中で、誰かが世間に対する呪詛を声高に呟いていた。最初は周りの人とモメて、喧嘩しているのかと思った。しかし、どこにもモメている気配はないのだ。

 車内放送のように、どこからともなく女性の怒る声が聞こえてくる。同じことを繰り返しているので、それは彼女が誰かとモメた際の予行演習のような気がした。強い心で生きて行くために普段から「こう言ってやろう」と思っていた言葉が漏れてしまった。しかも、早朝の静かな電車の中である。

 これは、この国のブルースなのだ。その言葉は労働者の悲しい叫びのように響いた。イヤフォン越しに聞こえてきた声に、胸を締め付けられて苦しくなった。でも、何度目かのリピートで「また同じ話かい」と脳内でツッコミを入れてからは気にならなくなった。そして、錦糸町駅で降りて行った。

 最近の僕が早起きを苦手としていることは、昨日も述べた。昨夜は寝坊しないようにとのプレッシャーで、結局あまり眠れていない。だから、電車内で寝たら終わると思っていた。そこに来てヘイトメッセンジャーが電車内にいたので、これは目覚まし時計のようなものだと切り替えて現在に至る。

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今朝、早起きして20分も早く着いてしまった調布。駅舎が見えない仕様の駅。