ルーツを辿る旅に出る

 祖母が亡くなったあと、祖母の貯金を母親が引き継ぐにあたり、相続関連の書類を揃えなければいけなくなった。書類書きや窓口との折衝に慣れていない母親は疲労困憊といった様子だ。わかりやすく説明したいと思うと全身に力が入ってしまい、ありったけの個人情報を公共の場で晒してしまう。

 何よりも大変なことは、祖母との親子関係を証明する書類を揃えることである。祖母に「終活」の意識などは微塵もなかったので、そういう履歴をわかりやすく残しておくという気遣いはなかった。だから、残された我々が掘り起こすしかない。母親の記憶だけを頼りに、過去を遡る旅に出るのだ。

 ここで詳細にその履歴を記すつもりはないが、この手の書類が面倒になる程度には波乱含みの生涯なのである。同じ土地で生涯を終えた人間であれば、その履歴は一筆書きで何の面倒もない。でも、籍を入れたり外したりの履歴があると、個別に戸籍謄本を取り寄せなければいけない手間が生じる。

 この手間で母親がダメージを受けているのは明らかで、役所などに出向く度に表情が険しくなる。代わりに全部自分が引き受ければいいのだが、初手から話を聞いてなかったので全部を理解していなかった。でも、書類書きを手伝っていたら徐々に見えてきた。もっと早く手伝っておけばよかった。

 この作業によって、僕は初めて母方の祖父の名前を明確に認識した。父方の祖母も僕が生まれる前に亡くなっているので名前は知らないが、叔父の家に写真があったのでイメージは持っていた。でも、母方の祖父は存在自体が空白だったので、名前を知れたことで失われたピースが揃った気がする。

 小さい頃から我が家に、年に一度ホタテを送ってくれる親戚がいた。勝手に父方の誰かだと思っていたのだが、数年前にそれは母方の祖父の兄弟から送られているものだと知った。自分の家族のことだが、調べなければわからないことは多い。これからは親の話をもっと聞くようにしようと思った。

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父方の実家はコメ農家だと思っているのだが、改めて聞いたことはない。