旅情は距離がものを言う

 僕は旅行が好きではない。計画を立てたり、事前にチケットの手配をするなどの雑事が苦手なのだ。だから、行き当たりばったりの気ままな旅行にしか行けない。このスタイルは何よりも金がかかる。でも、経済的に余裕がないくせに、この手段でしか旅行に行かない。これ以外は社員旅行くらい。

 以前、勤め先が夏休みをくれなかったので、秋に適当な連休をとってフラッと電車で出かけたことがあった。昼前に思い立ち、どうせなら遠くまで行ってみるかと西を目指した。とりあえずの目標は小田原。小田原に良い感じの飲み屋があったら、その辺を観光した後で飲んで泊ろうと思っていた。

 でも、3時前後に着いたのでランチにも遅く、飲み屋を物色するには早すぎる半端な時間帯だ。ひとまず落ち着こうと思い、海の近くだからと安易に選んだ海鮮丼的な看板の出ている店に入った。そこで食べながら、もう少し先に行くかという思いが湧いてきた。そこで浮かんできた地名が浜松だ。

 特急で行けば早いのだろうが、これは急ぐ旅でもないので普通電車で向かった。そういえば「青春18きっぷ」というのが出ていたような、なんておぼろげな記憶はあったのだが、いつ発売しているものかも知らないので使いようがない。情弱で貧乏をこじらせる、僕の中で負のスパイラルが炸裂。

 とはいえ、何も予定のない季節外れの夏休みなので、時間の使い方が多少雑でも誰に文句を言われる筋合いもない。しかし、小田原から浜松まで向かう車中は長かった。クルマで走っていても、東名高速のこの区間は妙に長い。あの道は、富士山が見える裾野あたりがピークで、以降は眠いだけだ。

 夕方の東海道線は、次第に学生で混みはじめ、暗くなって不安な気持ちが兆した頃に浜松に着いた。出張でよく来ていた街だが、プライベートで来たのは初めてだった。この寄る辺なき放浪者感を求めて旅に出るのだ。そんな気持ちになったのも束の間、すぐに馴染みのビジネスホテルを予約した。

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山梨側と静岡側の違いは分からないが、いつどこで見ても富士山は感動する。