そして今年もはかない命

 毎年夏が来ると、野外で鳴り響く2枚の羽の振動。セミの鳴き声だ。実際は羽と腹を擦って鳴らす摩擦音と、腹のなかに音を共鳴させる器官で音量調節ができるという結構凝った仕組みで鳴いているそうだ。いよいよ楽器だ。向井秀徳オマージュで「2枚の羽の振動」を使いたかっただけなのだが。

 いつまでもセミを「1週間の命」と思っている人は少ないだろう。TV番組で何度も生き物の専門家が「家庭で飼育するのが難しいので1週間で死んじゃう」だけで、野生なら1カ月以上は生きられると言っている。そもそも地上に出て来てから1カ月なだけで、地中生活の期間は何年もあるのだ。

 子供は虫が好きで、特にセミは初心者がイチバン捕まえやすい昆虫だ。虫取り網で簡単に捕らえられるし、恐れず手づかみで行けば難なく捕獲可能だ。羽の付け根あたりを掴むのがコツだが、成人してからの僕は虫を触るのが苦手だ。すべての虫がアイツ(G)に見えてしまう。僕は大人になった。

 先ほど近所をウロウロしていたら、アスファルトの上でステイしているセミを何匹か見かけた。よく地面で見るのは、ひっくり返っているセミの姿だ。あれは無様というか、夏の暑さにやられてダウンした感じがよく出ていて哀れだ。しかも、かなりの高確率で実は生きている。そして、急に動く。

 あの死んだふりをした状態ではなく、普通に木に止まっているのと同じ状態で地べたに止まるセミを複数見た。そこら辺に庭の木もあるし、電柱などもあるのだが、なぜアスファルトに焼かれたままでステイしているのか。何匹目かの地面ゼミを見かけたときに、なんとなくの仮説が思い浮かんだ。

 その地面ゼミは、背中の形がいびつになっていた。変種発見かと思って凝視すると、背中にセミの抜け殻を背負っていた。つまり「生まれたて」ということだろう。セミの抜け殻は木に付いているイメージだが、羽化する場所を見誤って地べたで成虫になったのかもしれない。ストリート生まれだ。

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どんなオシャレタウンに住んでいようが、セミの鳴き声は響く。