約束忘れてワタワタタ

 忙しくてバタバタすることを「ワタワタする」と表現する人がいる。雰囲気で察するが、あまり聞かない言い回しだ。あまり聞かないが、その人はいつもそう言う。だから、その人が忙しくてバタバタしていると「ワタワタしているね」と声かける。すると「すみません、ワタワタで」と返される。

 その言い回しは、バタバタしてオロオロしてワチャワチャするような、つまりはしっちゃかめっちゃかと言う意味だと受け取っている。僕も、自分に処理できないことが同時にふたつ以上襲ってきたらワタワタする。すでに自分の中にもワタワタすると言語化されるような状態が備わっているのだ。

 昨日は年末の酒場詣でに顔を出し、混み合う店の中で知った顔に雑に挨拶をしてきた。周りはバタバタしているが、自分の精神状態は極めて安定している。ただ、静かに喧騒を見守るおじさんだ。ただ、手持ち無沙汰を紛らわすためにスマホはたまに見ていた。すると、1件のメッセージが届いた。

 高校時代からの友達からの着信で「そろそろ駅に着く」と液晶画面に表示された。ん、なんだっけ? と思い、過去の履歴を探ると「この日に飲めたら行く」というやり取りが見つかった。すっかり忘れていたが、条件を提示したのは自分なので、この約束をすっぽかすわけにはいかないと思った。

 そこで店内を見回すと、その店は予約で満席。カウンターも、僕以外の席は全て埋まっている。この店では飲めそうもないので、別の店を探すことになる。年末はどこも混んでいるので、今から探すのは面倒ではある。そんなことを考えていると、ジワジワと焦り、いわゆるワタワタ状態に陥った。

 結局はいつも行く酒場にたどり着いたのだが、本当は最初の店で飲み続けていたかったのだ。友達は酒よりも飯の方を重視する男、最初の店は食事が旨いことで評判を上げてきた店。この店で胃袋を掴まれてくれれば、友達の方から「あの店に飲みに行こう」と誘われる機会も増えると思ったのだ。

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中年の胃袋は、野菜のうまさ、優しさを求めている。