カビの生えた思い出 

 よく行く居酒屋に、店が終わった後に聴く用のポータブルレコードプレーヤーが置いてある。それを見て、数人の常連が自分のレコードを持ち寄って聴いていた。そういえば我が家にも「レコードがあったよな」と思い屋根裏収納を探してみると、カビくさいレコードが数枚ほど出てきた。

 LPは父親の趣味であるグループ・サウンズの実力派「ゴールデンカップス」のものが多かった。その中から、有名な「長い髪の少女」が入ったものをチョイスした。あとはジェームス・ブラウンの「HELL」という原色のイラストが不気味でカッコいい盤を選択。これも父親のものだ。

 僕が学生時代、メタルに飽きて家にあったJBのこのアルバムを聴いてすごく気に入ったのを覚えている。なんとなく世界の広さと、視点を変えれば見えるものを意識した瞬間だった。なぜなら、そのアルバムは僕が幼稚園児の頃から家にあって、いつでも聴こうと思えば聴けたのだから。

 僕はよく音楽誌を読むのだが、ブラックミュージックの名盤にこの「HELL」が選ばれているのを見たことがない。JBの必聴盤は他にもあるので、ちょっと忘れられた存在なのだろうか。でも、僕にとっては特別な1枚なので、これを聴いて気にいる人がいたら嬉しいと思って選んだ。

 あとはシングルを数枚引っ張り出してきた。僕のお気に入りは沢田研二の「勝手にしやがれ」と「憎み切れないろくでなし」だ。やっぱカッコいい。カッコいい路線ではもんたよしのりの「ダンシングオールナイト」と「デザイアー」も選んだ。特にデザイアーは勢いがあって好きな曲だ。

 ただカッコいい曲ばかりでは面白くないかなと思って、昭和を代表する珍曲だと勝手に思っている吉幾三の「俺ら東京さ行くだ」も忍ばせておいた。昨日も店の営業が片付いた後で、プレーヤーを引っ張り出してきてそれらを聴いた。店主が吉幾三を2回聴いていたので気に入ったようだ。

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古い物にしか出せないビンテージ感は確かにあるが、それは劣化でもある。

本当に道は無数にあるのか

 子供の頃は、早く大人になりたいと思っていた。歳をとりたいわけじゃないのだが、歳をとらなければできないことがあるからだ。本当は子供にもできることなのだが、子供がやるには大胆な発想の転換が求められるような気がする。僕が大人になりたかったのは、自立したかったからだ。

 小さい家に家族4人で暮らしていたので、早く家を出たかった。別に親に対する反抗というのはなかったが、まあ、人並みに反抗期的なものはあった。でも、自立したい気持ちは反抗からくるものではなかった。どんなに貧しくても、自分だけの裁量で生きることに憧れていたんだと思う。

 そんな自立心から、高校を出たら就職しようと思っていた。ずっと勉強が嫌いだった。だから、高校受験を最後に勉強するのはやめようと思っていた。本当の社会は毎日勉強の日々だったりするのだが、そういう実地で学ぶ的なことは「できる」と自分を過信していた部分はあったと思う。

 そのままの感覚で生きていれば、今のような生活はしていなかったはずだ。ただ、高校を卒業して専門学校で勉強して就職する流れを想像できない。どこかで挫折しないと気が済まないというか、普通に就職する自分がまったく思い浮かばない。どの道を通っても今の自分になってしまう。

 高校の頃は本当に「早く自立したい」と思っていたのだ。それがどこで狂ったのかは明確にわかる。僕がその高校を選んだのは、ラグビー部に仲のいい先輩がいたからだ。その人と同じように僕もラグビーをやると思っていた。でも、その高校に入ると、僕はなぜか陸上部に入ってしまう。

 結局1年後にはラグビー部に入るのだが、その出遅れがすべての元凶といっても過言ではない。最後の年に1回戦で負けた僕は、他の同級生よりも圧倒的に実感が薄いのだ。実働にして1年半程度しかラグビーをしていない。これじゃ納得できない。大学でやるしかない。そして方向転換。

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いつも定食を頼もうと思うのに、行くと必ず五目焼きそば大盛りだ。

コミュニケーションも味

 昨日は千葉方面に仕事のため、最寄駅から錦糸町に出て総武線快速に乗り換えなければいけない。先方への到着時間を考慮すると、錦糸町を出る時間は1時前。だから、昼飯のタイミングなのだが、ジャスト過ぎて混み合いそうだ。店前の行列を見ると自動的に素通りするシステムを採用している。

 駅ビル内のチェーン店なら回転が良いと踏んで、そこでのランチを想定して出発した。早めに錦糸町に着いたので、時間的な余裕が生まれたので周辺散策に出てみた。行列がなければ気になる店に入ったって構わない。僕は自由だ。そんな気分で歩くと、すぐに汗が滲んできた。もうひとつの敵だ。

 僕は、出先で発汗すると調子が狂う。軽く汗ばむ程度なら気にならないが、仕事先に着く前に大量発汗するなんて最悪だ。気持ちよく仕事できないではないか。すぐに駅ビルに戻りチェーン店で涼みながらランチにしよう、そうは思うのだが目の前は魅力的な裏通り。次の角まで歩いて引き返そう。

 すると、すこし先にこじんまりとした定食屋らしき店の看板が見える。ここに来るまでにネット検索で何店かチェックしていた。そのうちのひとつと思しき店のようだ。吸い込まれるように入店。8人掛けのカウンターはギュウギュウ詰めとまではいかないが、多少ディスタンスが気になるところ。

 親父さんがひとりで切り盛りしているが、同時に数人分の調理をしても淡々と焦らず、かと言って無愛想と言うわけでもない。所在なく、入り口すぐのカウンター端っこに座っていた僕だが、真ん中の人が食べ終わったので入れ替わりにその席に着座。初めての店なので、注文を聞かれるまで待つ。

 水を差し出しながら「何にします?」と聞かれたので、アジフライとヒレカツを注文。揚げ物なので時間がかかるかと思いきや、先客より先に提供された。前後したので心配したが、先客のロースカツもすぐ出来た。それを手渡しながら「大きいから時間かかるんだ」と説明。この親父、できるな!

フラッシュバック・冬

 なんとなく7月は「もう夏だ」という気分で生きてきたのだが、平年の梅雨明けを見てみると本日21日が平均的な関東の梅雨明け日のようだ。梅雨の間は天気が安定しないし、雨でジメジメするので、体感的には「暑い」というよりは「鬱陶しい」という感覚の方が強い。だから夏気分ではない。

 でも、学生時代の夏休み感覚が7月イコール夏という気分にさせる。少なくとも僕は夏だと思っていた。でも、現実のいま、平年では梅雨明けの確率が高い今日も梅雨の天気だ。ちっとも夏気分ではない。いつも、ちょうど夏休みに入ると梅雨が明けるので誤認しているが、7月の夏は約10日だ。

 そして、今年はまだ梅雨は明けないという。特に夏に向けて準備していたわけでもなく、彼女もいないし、マリンスポーツに熱中する者でもないので問題はない。ただ、いつか明けるはずのものにダラダラ居座り続けられるのは気分が悪い。先に帰るはずの苦手な先輩がなかなか帰らないみたいに。

 夏が来たら何をするということではなく、夏が過ぎないと涼しくならないというサイクルの問題だ。猛暑、酷暑の日々は、暑がりな僕にとってはシンプルに地獄だ。それでも年々「冬よりは好き」と言うようにしているのは、そうやって克服しないと今後さらに暑くなる予感に耐えられないからだ。

 セルフ洗脳で夏を好きになろうとしている。僕が子供の頃に比べても暑いと思うので、温度の面で好きになることは不可能だ。日光は避けなければいけない。クーラーの効いた部屋にいる限り、ただ外が眩しいだけの快適空間だ。薄着の人々が生命力に溢れ、それを映像として見る分には悪くない。

 夏に流れることを想定したと思われる音楽も爽やかで好きだ。実生活の面では夏なんて「地球バーベキュー」みたいなもんで、地球の片面を満べんなく焼こうとしているようにしか思えない。地獄の沙汰だ。この灼熱地獄を終えると、一瞬の「秋」を素通りして凍死を想起させる季節がやってくる。

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夏野菜の帝王(オレ比)はとうもろこし。最近気がついた。新しい恋だ。

去りがたき戦場

 締め切り間際の職場というのは「祭り」のようなもので、熱狂の渦の中で浮かれる。僕の仕事は、締め切りを過ぎた現場で先方と調整しながら残りの仕事を後追いで納入させる手伝いだ。あくまで手伝い。現場の中枢にはおらず、自分の意思でできる仕事もない。ただ、スピードだけを求められる。

 その現場で足りていない手足の1本分くらいの仕事はしていると思う。でも脳みそではないので、最後まで残ることはない。手足の仕事は途中で終わってしまう。だから、ここ数年は仕事の最後を見届けることができない。まあ、僕の担当分が終わった時点で「おしまい」と割り切れば良いのだが。

 締め切りが過ぎているので、常に殺伐としている。その仕事が終わったとしても、そのあとで担当者は少しだけ怒られるか注意を受けることだろう。僕が駆り出されている段階で「追加予算」のようなものなので、僕も堂々と仕事しにくい部分はある。でも、そういう小さい仕事が僕の生活の糧だ。

 以前、同様の仕事を会社員としてやっていた時は、締め切りが終わると徹夜続きなので早く帰りたかった。だいたい朝に終わり、昼過ぎまで先方確認の電話を待たなければいけない。それが終わって早退したいのだが、その会社では締め切り後に社長が「次回のため」と称してミーティングを開く。

 思考能力ゼロの僕と担当者数人が席に着き、次回の締め切りまでの進行を話し合うのだ。泊まり込みで仕事していることは社長も当然知っていることだ。でも、それを労うことはない。なぜ泊まらなければいけなかったか、もっと楽なスケジュールは組めないのかと問われる。その時の僕は白目だ。

 その時僕が考えていたのは、早く早退して、職場近くのトンカツ屋でひとり打ち上げをすることだけだ。昼飯も食べず、朝からの流れで会議に入ってしまったので体力ゲージは底近い。記憶が途切れる寸前までいって会議は終わり、席を立つと「早退します」と言い置いてトンカツ屋に走る締切日。

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いくつになってもトンカツ好き。俺の皮膚は衣、筋肉は豚肉、血はソースだ。

うわっつら相談の末路

 酒場の話題を聞いていると、だいたい男女の関係性の話が多い。誰が誰と付き合っているとか、アイツは浮気しているとか、あの子は小さいサークルの中で男を乗り換える性悪女であるとか。その話のテイストが相談スタイルを取っている場合は返答しなければいけない。恋愛相談は僕の専門外だ。

 一般論で応対できる話ならばまだ良いが、既婚者の浮気に関する話はさらに専門性が強くて答えにくい。そもそも「オレに聞くな」と思わなくもないが、僕など広く意見を求められたうちの一部に過ぎない。ここは私心を捨て、その浮気男もしくは浮気され女房の気持ちを憑依させて考えてみよう。

 当然のことながら、霊媒師経験のない僕は彼らの気持ちを入れられない。だから、結局はうわっつらの言葉を言うことになる。僕の世界最弱な持論に「言うほど人は浮気しない」というのがある。理由は疲れるからだ。みんなTVに洗脳されて、芸人の浮気発言を一般化し過ぎなんじゃなかろうか?

 あと、男の浮気は見栄のようなものだとも思う。モテている、遊んでいるというイメージは「仕事できそう」な気がする。それは、社会における戦闘力の高さだ。つまるところ「オレは強いんだぞ」と威張っているわけだ。その社会的地位マウンティングの根拠としての遊んでいるアピールなのだ。

 以上が僕の仮説。さらに補足すると、男の浮気が見栄で、内実が空っぽなのと裏腹に、女性の浮気は濃い濃いで気持ちも乗っていると聞いたことがある。僕は女性じゃないし、女性の気持ちもわからないけれど、浮気は性別問わずするもの。男の浮気相手だって、ほとんどの場合は女性なわけだし。

 経験がないと話せないと言うが、想像力でも話すことはできる。しかし、そこにはズシンと重い根拠が必要で、想像の話には根拠がない。僕も話していて冷めるし、楽しめなくなる。今もツラツラとうわっつら思考で記してみたが、読み返す気も起こらないほど適当だ。だから人から相談されない。

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むかしから人望がない僕。ネギ盛り放題の店ではこのザマだ。浅い。

隠れ潔癖症の憂うつ

 学生時代は部活の同期から「不潔日本代表」かのように言われていた。僕が寮に帰ってすぐ風呂に入らないからだ。本当なら僕も、部屋に帰ってすぐに風呂に入りたい。風呂といってもシャワーを浴びるだけだ。でも、僕の寮の部屋は母屋と呼ばれていて、寮母さんの家屋と一体化した部屋だった。

 他の部屋はアパート然とした間取りで、その部屋の寮生が変わりばんこでシャワーを浴びていた。僕の使わせてもらっていた風呂場は寮母さんとも共用だし、他にも数人の利用者がいて競争率が激しい。早い時間に入ろうとすると、必ず先を越される。そのあとは晩飯タイムになり、さらに遅れる。

 もちろん僕も不潔な状態は嫌だ。夕方のうちに石鹸の匂いを漂わせて、余裕の心持ちで晩飯と夜のリラックスタイムを迎えたい。でも、常に見張っていないとシャワーに入れない。面倒なので見張らない。だから、なかなか入れない。結局、全員シャワーを浴びたであろう頃合いを見計らって入る。

 細かい消灯時間は忘れたが、その時間ギリギリにシャワーを浴びていた。たまに、寮母さんがシャワールームで鼻歌を歌っている時があってビビる。たぶん、鼻歌を歌うことで「入ってますよアピール」をしてくれていたのだろう。当時は、そんな優しさを嘲笑い、部屋で同期と笑っていたものだ。

 シャワーとともに洗濯物も溜めてしまう。これも当然、寮母さんの洗濯機を借りることになるのだ。コチラの争奪戦はさらに激しい。消灯時間を過ぎても、誰かの洗濯物が終わっていないと止めるわけにもいかない。コチラも場合によっては寮母さんの洗濯物だったりする。だから迂闊に覗けない。

 洗濯物に関しては、僕も本当にウンザリしていた。毎日部活で汚れるし、練習着のストックも少ないので、仕方なく「イケそうな」ヤツを再利用(選択しないで再び着るの意)することになる。で、結局回せなくなってコインランドリーに行くという。あの洗濯戦争に関しては、遺恨が残っている。

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洗濯は干すのも畳むのも好きなので、干し柿もいつか作ってみたい。