ブラッディモーニングキッス

 ヒゲ剃りが苦手だ。幾つになってもヒゲを剃ると血まみれになってしまう。それが嫌でヒゲを伸ばすこともある。伸ばすといってもカタチは整える。若い頃に蝶野正洋のヒゲのカタチを真似してウケた成功体験から、今でも同じカタチに整えてしまう。伸び過ぎるとカタチが不揃いになるので剃る。

 ヒゲは濃い方だと思う。中学生の頃から毎朝剃っていた。電気シェーバーが合わないので、ずっとT字のカミソリを使っている。電気なら血まみれになることはないと思うのだが、しっかり剃った感じがしないのだ。手入れも面倒で、洗わないと臭くなるし、朝の忙しい時間にバッテリー切れする。

 すべては面倒臭がりな僕の性格に起因する。T字カミソリでも、シェービングローションを使えば血まみれにはならないのかもしれない。使ったことがないから確かめようもないが、いつもよりも余計に血まみれな朝には「使えば良かった」と後悔する。今朝も血まみれになって同じように思った。

 子供の頃に通っていた近所の床屋のオッサンは、かなり念入りにヒゲを剃る人だった。ヒゲというか顔を剃るのだが、首から上のすべての産毛をツルツルに剃り上げることが使命のように感じていたのかもしれない。耳の穴の産毛を剃る時の感覚には背筋がゾッとしつつも、クセになる刺激だった。

 ただ、むかしから「剃ると濃くなる」なんて言葉を聞く。真偽のほどは怪しいのだが、耳の穴を入念に剃られたせいで耳毛が育ってしまったような気がする。コシのある毛が耳穴の入り口付近に密生している。老境に至る前に耳毛ボーン状態になりつつある。早くあの入念剃りの床屋に剃らせたい。

 その床屋のオッサンに顔を剃られた後は、必ずどこか出血している。血まみれになるほどではないが、オッサンがちょっと焦って応急処置的に軟膏を塗る姿は何度か見た。それを見て、こちらが悪いような気がしていた。オッサンがちょっとだけ被害者ヅラするからだ。あれはクレーム対策だろう。

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どんなに厳つくてヒゲが似合いそうな石像でも、表面はツルツルしている。