ランゲージ・ブレイクダウン

 文字として視覚的に見たことはあっても、口語として誰かが使うのを聞いたことのない言葉がたくさんある。パッと思いつくのは「洒脱」という言葉だ。「しゃだつ」と読む。雑誌で映画や音楽を紹介する記事などで用いられているのをよく見かける。意味は「垢抜けてる」と解釈して良いと思う。

 僕は、洒脱という言葉を見るたびに、なんとなく酒税の脱税のように見えてしまい、禁酒法時代のアメリカを想起してしまう。映画好きから聞かされた「アンタッチャブル」のようなイメージだ。僕の脳内では、洒脱と聞くたびに古い時代のギャングがクラシックカーに乗って銃撃戦を繰り広げる。

 すこし前に、動画サイトで映画などのコンテンツの解説チャンネルを観ていたら、そこの解説者が洒脱と言っていた。その動画自体がカルチャー誌のようなものなので、そういう表現が出てくるのは自然ではある。でも、やはり口語で聞くのは違和感がある。まったく耳馴染みのない文字列だから。

 違和感のある言葉で思い浮かぶのは、「渡る世間は鬼ばかり」というドラマの登場人物が頻繁に口にする「こしらえる」だ。リアルな人間が使うことはない言葉だが、渡鬼の中では大人も子供も当たり前のように使っている。脚本家が「こしらえる」を絶滅危惧種と感じ、保護しているのだろうか。

 使いたい時に忘れてしまう言葉というのもある。僕にとって「落とし前」がそれだ。これも絶滅危惧種なのかもしれないが、保護するために使いたくなってしまう。でも、使える場面でパッと口から出ない。なぜか「けじめ」と誤変換される。悪の組織が下手打った子分に制裁を与える時の言葉だ。

 僕の日常に落とし前はない。何かの例えとして使うわけだ。大映ドラマのセリフでよく聞いた気がする。不良グループを脱退する時のイニシエーションとしての落とし前である。それ以外の場面で使うことはない。だから忘れる。でも、いつか使いたいと思っているのでスマホのメモに入れている。

海に行くと砂浜で珍しい貝殻を探したりするが、見つけても持ち帰りはしない。