走り続ける様がいい

 僕はあまりラグビー以外のスポーツ観戦はしない方だったが、数年前からプロ野球を熱心に観るようになった。選手の名前を覚えたり、それぞれのバックグラウンドが積み重ねられていくうちに、本当にその球団のファンになった。分からないから熱くなれないだけで、やっぱりスポーツは楽しい。

 いま開催されているサッカーワールドカップも、当初は熱くなれなかった。日本代表が勝つたびに街に暴徒が溢れ出すような、悪いイメージが先立つ。そのせいで自国の代表を応援できないでいた。それでも大会の後半になると、選手の名前と特徴が分かってきて楽しめるようになるのだ。今回も。

 初戦のジャイキリから2戦目の敗戦と、状況は目まぐるしく変わった。予選リーグ敗退の空気と「またやってくれる」という気運は半々という感覚で観ていた。とりあえず見届けた方が良いなと思い、今朝の早朝からTVで観戦していた。本当はサッカー観戦営業をする酒場に行くつもりだったが。

 結果的に酒場で観てなくて良かった。今朝の段階ではまだ熱くなっていなかった僕だが、試合の途中からひとりの選手の走りから目が離せなくなっていた。特にボールを持って走るというわけではなく、相手ディフェンスやキーパー目掛けて猛然とプレッシャーをかけ続ける坊主頭の選手に夢中だ。

 僕は走り続ける選手が好きだ。それは、僕がラグビーをやっていた頃に叩き込まれた思想による。先輩から「お前は全ポイントに入れ」と指示され、それをなるべく遂行しようと思ったのだ。僕のポジションはポイント(密集)に早く飛び込んで、ボールを確保するのが仕事だ。全部は無理だけど。

 そのポジションは地道だった。ラグビーの得点シーン・トライからは遠く離れている。経験者でなければ目に見える仕事として見えない。よく観に来た人間に「お前、今日出てた?」などと言われるポジションだが、それはある種の褒め言葉でもある。今朝のサッカーで、そんな感覚を思い出した。

小説の中のスパイや探偵のように街に溶け込みたい。それは究極の普通である。