絶対に押すなよ

 漫画雑誌を読んでいた少年の頃、僕は隅々まで読むタイプだった。思春期のガキは素直じゃないので、周りの連中は「好きな漫画しか読まない」などと強がっていた。そういう人間の言い分としては、全部読むのは貧乏くさいということだ。くだらない話だと思うが、その空気が多勢を占めていた。

 彼らが本当に全ページを読んでいなかったのかは知らないが、僕が完全にすべて読んでいたことは黙っていた。確かに全ページを読み込むのは面倒だし、必ずしもすべての漫画が面白いわけじゃない。でも、漫画自体は面白くなくても、興味深い情報が入っていたりする。その小ネタが好きだった。

 漫画以外のはみ出し情報も、僕の大事な情報源だった。コマの外の空きスペースに、極小の文字でたくさんの小ネタが記されていた。それが記憶に残っている。今でも印象に残っているのは「目の下の涙袋のことを『涙堂(るいどう)』と言う」などの情報だ。日常会話で使う機会はいまだにない。

 学校で習っていないのに、なぜか知っていることの大半は少年漫画のはみ出し情報由来だ。舌の表面の白いものを「舌苔(ぜったい)」と呼ぶというのも、おそらく漫画で覚えた。覚えたが、やはり使うことはない。使わないから多くは忘れてしまったが、その中で印象が強い言葉だけ覚えている。

 うんちくを語るヤツはウザい。僕はその手のネタを聞くのは嫌いじゃないが、他の人の意見を聞くとあまり印象は良くない。知識マウントのように感じるのだろう。確かに知識をひけらかされるのは、単なる勉強の発表にすぎないので「知らんがな」と思う気持ちも分かる。だからあまり言わない。

 僕にとってのとっておきの小ネタが涙堂と舌苔なのだが、だからって「それが何よ?」という知識でもある。でも、僕はこの言葉を手掛かりに「漫画雑誌の欄外」を読んでいた仲間を探したいのだ。知識でマウントを取りたいわけじゃない。だから、うんちくを語る人には情報源を聞くのが正しい。

物流倉庫においてパレットは最重要アイテム。これはうんちくではなく経験談