メッセージ・フロム・フジ

 夏フェスは体力的にキツくなってきたので、無料で配信してくれるサービスは助かる。金曜日からの3日間は、日本でイチバン有名な野外フェスの動画配信が観られる。3日間PCに張り付いてチェックしていたわけじゃないが、好きなバンドやアーティストのライブをいくつか観ることができた。

 それらの中で、最も印象に残ったのはT字路sというユニットだ。女性のギターボーカルの声が強烈で、それまで知らなかったのに一瞬で心を掴まれた。ブルースユニットなので、その界隈の逸話にある「クロスロードで悪魔と取り引き」的に手に入れた声のような強くて魅力的な声が素晴らしい。

 この声でいろんな歌を聞きたいなぁと思っていたら、ラストで恐縮しながらRCサクセションの「スローバラード」を歌ってくれた。なぜ恐縮したのかと言うと、このフェスと忌野清志郎との密接な関係への配慮というか、リスペクトなのだろう。でも、その歌は最高に清志郎的でカッコよかった。

 僕がフェスに足を向けていた数年前までは、現地でこんな出会いをしたかったのだ。でも、実際にその場に行ってしまうと、知っているアーティストのライブばかり観に行ってしまう。だから新しい発見を求めているクセに、自分のプレイリスト内のアクトを点々とするだけで終わってしまうのだ。

 フェスの会場は、規模が大きくなるほどステージ間の移動が長くなる。タイムスケジュールを熟知して効率的に動かないと、観たいもの全部はコンプリートできない。音楽という感覚に訴えかけるものを体感するのに、効率的な動きというのは食い合わせが悪い。だから僕は疲れてしまうのだろう。

 その点、配信で観ている分には体力ゲージはほぼ減らない。ただ画面を眺めて、良ければ調べてサブスクでDLする。便利だ。でも、何か物足りない。やはり体感が足りないのだ。現地の不便さを差し引いても、直に聴く音や声には価値がある。配信ライブでも感動できるが、質的な差はあるのだ。

普段の街歩きではイヤフォン必須だが、迫力ある建物の前では音楽は無力だ。