食いしん坊の食わず嫌い

 僕は寿司をあまり食べない。生魚が苦手ということではないが、確かに魚に詳しくはない。寿司屋に行ってないからだ。だから、人に誘われて寿司屋に行っても何を頼んでいいか分からない。そのせいで、一人で寿司屋に入ろうとも思わない。自分の意思で寿司屋に入った回数なんて、片手に余る。

 高校の同級生が学校帰りに、回転寿司に誘ってきた。もともと変わったヤツだと思っていたが、オヤツ的に回転寿司を使うというセンスが新しくて乗った。値段は覚えていないが、チェーンの回転寿司屋なので特に金銭面の心配はなかった。ただ、何を頼めばいいか分からないのでそいつに任せた。

 すると、そいつが「もう決めている。一緒でいいか?」と聞くので、もちろん同意した。回っている皿から取るのではなく、近くにいた板前さんに「サラダ軍艦ふたつ」と頼んでいた。回転寿司のダイレクト注文を初めて見たのと、いきなり外道な巻き寿司からいくというチョイスにすこし驚いた。

 当然すぐに寿司は出てくる。前菜のような感覚でペロッとサラダ軍艦を食べ終え、さて次は何にしようかと考えていると、そいつは「じゃあ行こうか」と言って席を立った。サッサと会計を済ませて出て行ったので自分の分を払おうとすると、そいつは「ここはいいから」と払わせてくれなかった。

 その時のことを後日「あれ何なん?」と聞いたけれど、明確な返事はなかったような気がする。その印象があるから「変わったヤツ」というイメージが残っているのかもしれない。そいつの結婚式に呼ばれたので、ご祝儀と一緒に式場近くで買ったサラダ軍艦を渡した。意味が伝わったかは不明だ。

 中年以降のひとり飲みライフで、行きつけの寿司屋のひとつは持っていたい。おまかせの握り盛り合わせと今日の一品の刺身、オススメの地酒で小一時間ほど過ごす。大人の嗜み的な良い時間という気がする。最近は日本酒もイケるようになったので、そんなコースをプランに加えても良いだろう。

北陸の名もなき崖。海辺と魚料理が対になる思考回路は組み込まれていない。