レストルームにベルボトム

 ある日の夢で、70年代ルックの先輩からベルボトムを激推しされた。「君のように背の高い人間なら絶対に似合う」と、なかなかのユーズド感を醸し出した先輩の私物と思しき年季の入ったベルボトムを僕の下半身に当てがって来る。あまりにも推すので、僕もその気になりかけた所で目覚めた。

 夢で見た景色や、出てきた誰かのことが気になって仕方ないことがある。もともとは興味のなかった安室奈美恵と夢の中で仲良くなって以来、彼女のことを好もしく思っている。そうやって自分の趣味嗜好を拡張させることがある。だとしたら、近い将来僕はベルボトムを手に入れるかもしれない。

 冬場は寝る前にトイレに行きそびれる。寒くて布団から出たくないと思いつつ眠りに落ちるので、夜中に尿意をもよおす。それでも寒いから我慢して眠ると、高確率でトイレに行く夢を見る。以前はなんとも思わなかったけれど、最近はトイレの夢が現実とリンクする。つまり、漏らしそうになる。

 たぶん、むかしからサインは出ていたのだ。トイレの夢は現実の延長なのだが、若い頃は蛇口の締まりが強いので漏れないのだ。でも、いよいよな年齢になって来て、この予知夢はリアルなピンチのお知らせになってきた。だから、即座に起きて用を足す。この予知夢だが、実は毎日のように見る。

 夢の中に出てくるトイレは奇妙だ。広い空間にいくつもの便器が並んで、まるでトイレメーカーのショールームの様相を呈している。しかし、その空間には僕以外にも誰かがいる。だから用を足すためには個室か、他人から見えない角度のトイレを選ばなければいけない。でも、全体的に素通しだ。

 この夢の中のトイレでは、結局いつも用を足せない。それは、もちろん現実世界で漏らさないための危機回避なのである。脳が止めているのだ。夢の中の僕も我慢している。で、もう無理だと思った瞬間に目覚める。目醒めた時には尿意のことも、さっき見ただだっ広いトイレのことも忘れている。

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原宿駅近くの跨線橋から見た冬の線路。寒々とした景色は尿意をもよおす。