不本意な美食体験

 四半世紀ほど社会人として生きているわけだが、その間に会社に属していた期間はその半分くらいだろうか。その会社員だった頃だが、転職を重ねるほど会社のクオリティは目に見えて落ちて行く。最後に勤めていた会社などは、その集大成と言っても過言ではない。最下層の社畜に成り下がった。

 まあ、社畜というほど虐げられていたわけではないのだが、勤めている間の収入は過去最低だった。フリーになった今もあまり変わってないが、最下層の居心地が良いわけでもないのに、そこから浮上できる気がしない。その最下層会社に入ったばかりの頃、元いた社員たちが続々と辞めていった。

 当初は辞める社員の補充要員として雇われたのかと思っていた。でも、僕が入って以降も退社ブームは終わらず、その年のうちに残り5人程度の小所帯になっていた。会社自体が業務を縮小しようとしていたのか、みんな辞めちゃったから縮小したのかは不明だが、社長は前者だと言い張っていた。

 とにかく、入ってすぐに前任者が辞めてしまっていたので、仕事の引き継ぎは適当の極みだった。社長は「まあ、分かるでしょ」などと、これも適当なことを言うので頼りにはならず。営業職だったのでクライアントがいるのだが、ほとんどの客先に「初めまして」で顔を出すという有り様だった。

 そんな適当引き継ぎをするくらいだから、客先とは太いコネクションがあるのかと思ったら、全然しっかりとした関係性が築けていなかった。そもそも客ですらなく、ほとんど新規飛び込みのような塩対応だ。それらの情報は共有されていない。前任者が上司に調子のいいことを言っていただけだ。

 そんな調子のいい前任者のひとりが、辞めてから1件の引き継ぎをするために僕と同行した。その引き継ぎも適当の極みだったが、そいつと一緒に行った定食屋がメチャクチャ旨かった。港町でアジの干物定食を食べたのだが、これが極上だったのだ。美食はどんな嫌いな人間と食べても旨いのだ。

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仕事先での楽しみはメシ。この焼肉定食を食べられる店は廃業してしまった。