破滅型ドランカーの末路

 酒場の常連の中で、ほぼ酔った状態でしか会ったことがない人間が何人かいる。みんな酔いたくて飲んでいるとは言え、初手から酔っているわけではない。誰もが段階を経て酔いを進めるわけで、シラフ状態から徐々に酔いの度合いを深めていくはずだ。でも、シラフ状態が異様に短い人間も多い。

 仕上がりの早い人間は、同じ話を繰り返したり、大きな声で面白くないことを言ったりする。陽気だから多少は許せるけれど、酒場の大声というのは衝突を生む。常連の酔漢が場を圧するような声を出している店には、新規の客や通いはじめの客が入りにくい。だから、店主に怒られることになる。

 店主に怒られて聞いているうちは良いのだが、そのうち攻撃的になってきて「あいつには注意しないのに、なんでオレには注意するのだ」などと恨みがましいことを言い出す。そういう些細な粗相を重ねて来にくくなったり、シッカリと店主から「出禁」を言い渡されたりする。そんな破滅型の話。

 いつ会ってもベロベロで、もともとの滑舌も良くないので何を話しているのか分からないことが多い男がひとりいる。行儀よく飲むことを知らないので、誰と絡んでも絶対に相手が呆れることになる。ただ、いつ見ても同じという安心感があるからか、あまり周りから嫌われていないのが不思議だ。

 僕も会えば多少話はするのだが、なにせ泥酔していることが多いので会話は噛み合っていない。僕は酔ってもあまり変わらないと自分では思っているので、普通に話したいし、気になることは聞きたくなってしまう。でも、泥酔している人間に聞いても答えは返ってこないし、聞きたいこともない。

 会話を楽しめない人と飲むのは、僕にとって酒場に行く意味をひとつ目減りさせてしまう。それでも、そういう破滅的な飲み方に羨ましさのようなものを感じないでもない。そんなフラフラのベロベロでも受け入れられるというのは、何かしら人間的な魅力があるのだろう。僕も受け入れているし。

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看板の表面は綺麗でも、裏側はボロボロ。まるで僕の内臓を見るようだ。