アニマルのマニュアル

 小さい頃は家で犬を飼っていたと両親から聞いたことがあるが、犬に懐かれるタイプではない。よく行く得意先が飼っている代々の番犬たちには、毎度噛まれる。特に先代の番犬は優秀で、僕のお気に入りのスニーカーに歯型が残っていた。今はそのスニーカーも番犬も、この世にはいないらしい。

 動物に関しては、特に犬との相性が悪いらしい。僕は信じていないが、前世があるなら、生類憐みの令をシカトして犬をいじめまくっていた輩の生まれ変わりなのかもしれない。ただ、それだと犬も必ず犬として生まれ変わっていることにならないか? こういう矛盾が生じるから前世話は嫌いだ。

 遡ると、小学生時代に最初のバイト体験があった。このバイトは英語の「噛む」の意だ。同級生の家に「開けてはならぬ」という扉があり、そこを迂闊にも開けてしまった僕は、中から飛び出してきた茶色に腕を噛まれた。同級生の母親には「だから開けないでって言ったのに」と怒られるという。

 別に痛くも何ともなかったのだが、噛まれた箇所から出血があったので泣いてしまった。その上、その母親が「狂犬病の予防接種を打ってないのよね」などと不吉なワードも聞こえてきた。暗に「何かあっても知らんからな」という脅しめいた雰囲気も出していたが、それは今考えると、という話。

 その件以降も、犬と幸せな付き合い方をしたことがない。唯一の接点といえば、前に住んでいた家からバス停までのルートにいたシェパードくらいだ。その犬とも相性は悪かったので、毎朝毎晩、そこを通りかかるたびに激しく吠えられた。当初はビクッとしてしまったのだが、次第に慣れてきた。

 その犬が怖いのは、敷地の柵に前足を叩きつけて突進しながら吠えることだ。移動できるロープに繋がれているので、長い助走をつけて当たってくるから勢いがすごいのだ。ある日、機嫌が悪かったので犬が吠える前に睨みつけてやった。すると、シュンとして吠えなかった。それで間を見切った。

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飼い犬と相性が悪いだけで、動物愛護の精神は持ち合わせている。