どこかで会ったに違いない

 酒場で会って話すようになっている人の中には、知らぬ間に仲良くなっている人がいる。最初に酒場通いをするようになった頃は、ひとりで飲みに行くことはほとんど無かった。連れがいるから、周りの常連とは壁ができてしまう。その壁を取っ払うためには、ひとりで飲みに来なければいけない。

 同じ飲み屋に通う者同士というのは、同じサークルに属しているような部分がある。同じサークル内には仲が良い者もいれば、ほとんど話さない者もいる。いつの間に仲違いしている険悪な関係性もあったり、そんな険悪な関係性を経て再度仲良くなるようなのもある。僕はそれらの傍観者だった。

 でも、いつの間にか同行者もなく、ひとりで飲みに行くようになった。同行者のペースに合わせるのが面倒だし、自分の気分で飲みたいと思うようになったからだ。そうなってから、しばらくは傍観者でいられた。面白いバーテンダーがいたので、その人と話すために行っていた。その人は男だが。

 そのバーテンダーと話しているだけなので、周りの常連客の顔は覚えても話すことはなかった。たまに話しかけてみても、そういう社交性が身についていないので警戒される。心を開く感じになってくれない。本当は、そこからさらにズケズケ踏み込まないといけないのだが、それができなかった。

 それでも同じ店に長く通うようになって来ると、次第に周りの人とも話すようになる。話して、知った方が人間観察は楽しい。だから、そうやって集めた情報をもとに周りを眺めていた。そのうち関係性が見えてきて、ここは当初思っていたほど排他的なサークルではないことが分かってきたのだ。

 というか、一般的なマナーさえ守っていれば、酒場なんて自分の気分次第で好きに楽しんで良いのだ。何も怖くない。もはや周りの関係性ウォッチングにも飽きて、ダラダラと飲んでいるだけだ。知った顔もいれば知らない顔もいる。知らない顔に話しかけられたら楽しく話す。そんな毎日である。

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人と人をつなぐ架け橋。歳をとると、そういうお節介気分も芽生える。