夏には夏の歌を

 季節感を大事にする人は、この時期に雪山のノンフィクションなど読まないだろう。逆に、暑い夜を涼しく過ごす効果を狙って、寒い世界の中の話に没頭することもあるかもしれない。僕は、特に季節感を大事にするタイプではなく、また本によって涼を感じたい気持ちもなく、雪山の本を読んだ。

 ここ数日、その本とともに暮らしていたような感覚があり、僕の心も少しだけヒマラヤに飛んでいた。チベット側のヒマラヤだそうだ。一度は行ってみたい秘境。何故か小さい頃から、チベットという国に惹かれてしまう。はじめて映像で観た時に「簡単には行けそうにない」と感じたからだろう。

 印象的なシーンでは、TV番組の「グレートジャーニー」で、探検家で医師の関野さんがチベットに向かう場面。そろそろ中心部に入ろうというエリアでカメラに向かって「ラサだね」と語りかける。ラサとはチベット政府の中心地で、ポタラ宮のある都市。その都市を前にワクワクしているのだ。

 僕がインドに旅行に行った時、ネパールやインド北部の秘境に行った人にたくさん会った。ネパールは評判が良かったので行こうかと思ったのだが、北インドで長い期間沈没してしまい、南に行きたくなったので諦めた。僕が行ったのは「雪山の州」を意味する名前のヒマラヤ付近のエリアだった。

 この州のダラムサラという都市にはチベット亡命政府がある。手ぶらでインドに行った僕は、そんなこと知らない。ただ行き当たりばったりでたどり着いたのがダラムサラのマクロードガンジというチベット人の街だった。タイミングが合えばダライ・ラマにも謁見できるという。合わなかったが。

 いま思い返してみると、あの辺りのエリアに旅行する人はトレッキングが目的で行くのだ。僕は、ニューデリーの暑熱に耐えられず、着いて早々に避暑目的で雪山の州にやって来た。でも、そのおかげで冒頭の本を読んだ時に作品の世界に入りやすかった。だから、本に没頭できたのかも知れない。

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ダラムサラのホテルから見えた山。名前は知らない。ただ感動しただけさ。