駄菓子屋ラビリンス

 子供の頃の駄菓子屋では、少ない小遣いを駆使して至高のオヤツをチョイスしようと熟考していたものだ。小さな駄菓子屋は、大人なら1分足らずで店内のラインナップを把握できる程度の物量しかなかった。そんな狭小空間の通路に座り込んで、じっと棚の駄菓子と手持ちの小銭を見比べていた。

 甘いもの、しょっぱいもの、飲み物というバランスで選びたいのだが、ジュースを買うと100円の小遣いは消えてしまう。夏場ならアイスだ。僕が好きだったのは「三色トリノ」という安い棒アイスだ。値段で決めていたのだが、3つの味が楽しめるので満足感も高く、特にバナナが好きだった。

 コスパで選んでいるので、ちゃんとしたパッケージの駄菓子を買った記憶がない。そして、親がオヤツ用に買うお菓子は、いつだって子供のセンスとズレたアソートパックだ。家庭訪問の際にはお茶菓子として「ルマンド」が用意されることが多い。担任はほとんど手をつけないので、僕が食べる。

 ちゃんと名前のついたお菓子は、その頃の僕としては高級に過ぎたのである。せいぜいがチョコバットくらいのもので、あとは包装紙もないような雑なお菓子ばかりを食べていた。棒きな粉やきな粉玉は、あと十円余った時に買い足す一品として重宝した。とにかく安いお菓子ばかりを食べていた。

 だから、買ったことはないのだが気になる名前のお菓子はたくさんあったと思う。その中で、今でも印象に残っているのが「セコイヤチョコレート」だ。セコイのはイヤだな、と子供心に思ったものだ。誰よりもセコイお菓子の買い方をする僕だったが、自分のことは見えていなかったようである。

 今さらながらに気になったので、調べてみた。セコイヤチョコレートは「メタセコイヤ」の木にインスパイアされた名前らしい。チョコの実物を見たことはないので、どの辺にメタセコイヤ感があるのかは知らない。そもそもメタセコイヤの方もよくわからない。何年生きても知らないことばかり。