あの夜、宇宙は覆われた

 数年前のこと。夜中に酔っ払って帰宅する時に、自宅の近くで夜空を見上げると、空の端から端まで伸びる一本の雲があった。むかし、クジラだと教えられたようなスタイルの雲が東西に伸びていた。その姿は異様で、不吉な出来事の前触れにも思えた。不気味だと思いつつ、写真は撮っておいた。

 雲なのに存在感があるのだ。夜空を見上げたのも、そこに気配を感じたからだと言っても過言ではない。そして、そこに忽然と現れた異形の「存在」を見た時も、果たして「コレは何なんだ?」としばらく固まってしまった。その時感じたのは、ついに「目撃してしまった」という恐怖なのである。

 夢の中で何度か、空にデカすぎる飛行物体が現れて、コレはさすがにサイエンスフィクションの世界だろうと思うことがあった。メタな夢である。そういう不自然で超自然な存在を目撃すると、人間は笑ってしまうらしい。その雲を見た時も、なんか訳がわからなすぎて吹き出してしまったものだ。

 いつまで空を見上げていても問題は解決しないし、家に帰って家族の者を起こすのも躊躇われた。でも、その空に浮かぶ存在を放置して帰宅するのは少し恐ろしかった。周りを見回しても、夜中なので出歩いている人間はいない。もしいても犯罪者か後ろ暗い所のある者だろう。健康体は僕だけだ。

 こういう時はエスエヌエスだ。ツイッターで「空に、明らかに変な雲が出浮かんでいるぞ」とつぶやいた。興奮と焦りから「浮かんでいる」の前に「出」という余分な一文字を付けてしまった。もしかしたら、このミスもあの空の存在が関与しているのかもしれない。誤字で信用度を落とすために。

 とりあえずツイートすることで、多少の心の落ち着きを取り戻した。いま同じ空を見ている人間なら反応するだろうと思った。この異形の雲を論理的に説明してくれる人がいたら、さらに安心できる。しかし、何の反響もなく、また、僕もそれ以降あまり思い出すこともなく、平和に過ごしている。

f:id:SUZICOM:20200430163538j:plain

2015年12月6日深夜、埼玉南東部の上空に浮かんだ不気味な雲の正体は、雲。