都会の片隅にこもる熱

 飲み仲間同士の忘年会で、神保町のビールバーに行くのがここ数年の年末の定番行事だ。輸入ビールの店なので、普通の居酒屋のように飲んでいるとすぐに財布が軽くなる。今年は早めに切り上げて、神保町の中で気になる店を探して回った。ただ、4人で行ってるので酒場の趣味は全然合わない。

 路地裏にいくつか大衆居酒屋があり、このエリアで全員が納得できそうな普通居酒屋を見つけて入った。ただ、この手の店に、わざわざ神保町まで出てきて入るのも腑に落ちない。とは言えコチラも4人組なので、静かな店で飲むにはラウド過ぎる。必然的にそのような騒々しい店にしか入れない。

 その居酒屋の奥には、大広間が喫煙エリアとして用意されている。僕は吸わないので、そのエリアに魅力はない。ただ、愛煙家の同行者が最初の店で吸えなかったので、その大広間に座るなり店員の女性に灰皿を頼んでいた。かつてタバコを吸っていた頃の感覚は、不思議なくらい消えてしまった。

 席についてすぐは、この大広間の雑然に不安なものを感じたけれど、座敷に座るとすぐに馴染んだ。フロアが広いので、タバコの煙も想像以上にこもらない。壁にみっしり貼ってあるメニューも、安心感はある。でも、こんな店は日本中に無数にある。違いは、店の間取りがヘンテコで面白いのだ。

 座席から障子越しに調理場が見える。その調理場が、座敷より一段高い位置にある。我々は当然座っているので、結構見下されたような位置関係だ。それが、それぞれの客の深層意識に働きかけて、大人しくしていようと思うのか。監視されているような構図が、割と安心感があることに気づいた。

 まあ、総じて久しぶりに数人で飲むと、それなりに盛り上がって楽しいものだ。何人かで飲む場でのグルーブも、確かにある。自分ひとりでは起きない気持ちの揺れが、良い方に振れれば最高なのだ。その代わり、最近は疲れる。ひとりでも疲れるのだが、連れがある時の疲れはもうすこし重めだ。

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年の瀬の焦る気持ちを、街の変な看板で和ませる。「ライドインブ」。