WALKING DEAD OR ALIVE

 傷つかないための防御策なのか、むかしから執着心が弱いところがある。絶対に欲しいとか、絶対に譲れないという強い気持ちになれないのだ。何も意識しないで歩いていると、知らないうちに自分の前にグイッと割り込んで先に行かれるようなことはよくある。電車の乗り換えなどで、よくある。

 僕のことは何とでもなるけれど、その人の人生は「邪魔したくないな」と思うのだ。その際、後まわしにされた僕の人生は、行き場のない憤りを感じることになるのだが。自分でも後で「あれ?」って思うのに、その場では自然に道を譲ったり横入りを黙認してしまう脇役のような人間なのである。

 座席のない野外ライブとかで、ギュウギュウに詰まった人の群れの中にいると、なぜか僕の前を人が頻繁に通る。ステージに集中したいのに、後ろから前からガンガン僕の体にぶつかって通り過ぎて行く。その時の奴らの表情が一様に無愛想で、何ならこっちが悪いかのように不機嫌に通り過ぎる。

 譲り合う精神はあるので、申し訳なさそうに通り過ぎれば普通に譲るのに、絶対にオラついたバカの歩き方で僕の体の一部を削って行くのだ。それを何回か喰らった後で、絶対に道を譲らない「壁」の意識で立ちふさがってみたことがある。そうすると不思議なもので、誰も通らなくなったりする。

 とはいえ、こちらはライブを見に来ているのであって、壁に擬態したいわけじゃない。他人の前後移動に惑わされて、集中力を散らしている場合じゃないのだ。この現象は野外フェスで起こりがちなので、不慣れなフェス初心者の愚行だと思って心を鎮めている。もちろんアルコールの力を借りて。

 まあ、フェスの時の歩行被害は別の要因もある。それは、人間の心理というか、いわゆる目の錯覚だ。僕の身長が高くて、周りから頭ひとつ飛び出している。そのせいで目印にもなるし、両隣との高低差が隙間に見えるのだろう。正面から来る人が、あからさまに僕を目指して来るのがわかるので。